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★  セーヴェルーの作品ってどんな感じ?

今年2007年は、グリーグ没後100年。
そんな記念の年に、もう一つ!!私にとって、大切な節目を迎えた年でもあるのです。 個人的な話で恐縮ですが、セーヴェルーの作品に出会い、紹介を始めて今年で10年・・・
(うぅっ。年もバレルか!?)。 そこで、セーヴェルーの作品について、少しお話しさせて頂きたいと思います。

 
写真提供:トロン・セーヴェルー
(写真の無断使用は禁止します)
   

〜♪〜 ブルグミュラー程度で演奏出来る、耳に残るセーヴェルーの名旋律 〜♪〜

「セーヴェルーの音楽は、一度聴くと、耳に残りますね」
初めてセーヴェルーの音楽を聴いて頂いた方から、良くこんな風に言って頂きます。

「リズムが独特で、つい体が動いてしまいました(笑)」
小さなサロンでセーヴェルーの小品を演奏しながらふと客席を見ると、リズムに合わせてお尻や肩を小さく揺らしていらっしゃる方の多い事!
たんぽぽが風に揺れているような光景が微笑ましく、こちらまで楽しくなってしまったコンサートの後でこんな一言を頂戴致しました。

これまで、セーヴェルーの作品について様々な音楽評論家の先生方や音楽関係者の方々にご意見を頂きましたが、こんなにも違った、面白い聴き方があるのか!と驚く程です。
幾つかではありますが、ピックアップさせて頂くと、類似しているものとして、

 
 

                                 等など・・・・

興味深い専門家の先生方のご意見から、セーヴェルーの作品は様々な角度からこんなにも広い視野で捉えて頂いております。一種独特の世界ではありますが、ノルウェーの自然や物語は作品の中に静かな存在感で息づいています。


〜♪〜 レッスンに取り入れたい作品の魅力 〜♪〜

セーヴェルーのピアノ小品は、ノルウェー特有の民族的なリズムが一見私達には馴染みが無いように思われます。しかし、人々の生活の中で生まれた民謡風のどこか懐かしいメロディ、日本人が愛してやまない自然の風景や風、木々や花々の香りが感じられるような癒しの要素等、私達日本人と共通している所が実際とても多いのです。 「何だか懐かしい。耳に残る」という印象は、きっとこんな所から来るのだろうか・・・という事が10年かかって分かってきた様に思います。

ピアノ作品を演奏するにあたり、まず、最初の「譜読み」についてお話しさせて頂きます。 一言で申し上げますと、それまで慣れ親しみ、分かり易いドイツ風の和音を持つ曲から、初めてフランス作品を試みた時、少しとまどいを覚えますね? あんな感じのとっつき難さは、確かにあります。

初めてドビュッシーの作品に触れた時、慣れ親しんだ手の形、耳馴染んだ旋律や進行とは違う曲に練習が全くはかどらず、譜読みに嫌気がさす・・・という経験は皆さんにもおありではないでしょうか?(私も何度となく挫折した一人です)

でも、一度そのメロディを知ると、優雅でおしゃれな雰囲気に一気に魅了され、なぜかクセになってしまう。セーヴェルーの作品も、その感覚に似ています。

フランス作品と同様、一度弾くとクセになってしまうのが、ノルウェー作品の特徴です。 メロディが頭に入り、指が鍵盤に行く様になれば、こちらのもの!! あまり体験した事のない、甘く叙情的なメロディ、珍しい音型の和音は正に「クセになる」おいしさ(!?)と言った所でしょうか。

フランス作品と少し違う所を強いて挙げるのであれば・・・ フランス作品は、マネやモネの色彩豊かな絵画が作品の中に見えるようですね?パステルの美しい絵画と音楽の調和は、何よりフランス作品を演奏していて楽しい所だと思います。 ラヴェルの力強い曲にさえ、根底には色彩豊かな絵画が見えるような、あたかもピアノを通して美術館を巡っているような錯覚に陥る時があります。

ノルウェーの作品は絵画・・・というより実写と言えるのではないでしょうか。 実際咲き誇る花々、優雅な蝶々、流れる小川、雄大な山々が、あたかも目に見えるように、頭にくっきりと浮かび上がり見えてくるのです。

そしてもう一つ。ノルウェーの作品、特にセーヴェルーの作品で最も大切な事は、「想像力」です。大人になると忘れてしまう、小さい頃にしか体験しなかった想像の世界。 私は「赤毛のアン」が大好きでしたが、アンのような想像の世界が作品中に繰り広げられているのです。

例えば、セーヴェルーの「絹の靴下の踊り」という曲があります。 タイトルだけ見ると「?」という感じになりますよね(笑)?
でも、そこはアンのような想像力を働かせて頂きたいのです! 「おもちゃのチャチャチャ♪」の歌を思い出して下さい。 皆が寝静まった真夜中、なまりの兵隊がトテチテタ〜とラッパを鳴らしたり、フランス人形が踊り出したり・・・。この曲はそんな世界です。クリスマス前でしょうか?子供が飾った絹の靴下が夜中に踊りだし、動き出したらどうでしょう! 不思議の国のアリスや、くるみ割り人形にも近い世界とも言えますね。

ノルウェーには未だ子供達の間には「トロル」伝説が息づいています。 又自分の話で恐縮ですが、小さい頃一人で家にいると、ピアノにうつる影がお化けに見えたり、カーテンの襞が気味の悪い動物に見えたり・・・皆さんにはこんな経験ありますか? ノルウェーでは、窓から見える連なる山々がこちらに襲ってくる感覚のものがトロルに見えたり、一人で鬱蒼とした山に入り高い木々を上に見た時覆いかぶさる感覚がトロルに見えたり・・・。 こんな想像力がノルウェーの人々の間にも、そして音楽にも息づいているのです。

セーヴェルーの作品の面白さは、演奏者が子供の頃に戻って、想像力を駆使すると本当に楽しいものになります。 又聴いて下さる方々が「何か懐かしい」と思われるのは・・・きっと作品の中に子供の頃の思い出を重ねられているのかもしれませんね。

ちょっぴり譜読みの苦労を我慢して頂けたら・・・。きっと新しい世界が広がる事でしょう。ピアノの先生方の普段使いのレッスンのお供や、発表会のレパートリーに是非セーヴェルーを入れて頂けたら幸いです。曲も2〜3分、1〜2ページのものがほとんどです。
楽譜・CDはこちら
曲の紹介はこちら

〜♪〜 セーヴェルー作品と出会って 〜♪〜 

日本で全く知られていない、新しい作品を初めて紹介し演奏する・・・。 この難しさを痛感しながらではありましたが、多くの・・・本当に多くのあたたかい方々に見守られ、助けられ、アドバイス頂きながら、あっという間の10年だった気が致します。

振り返ってみると、セーヴェルーの作品に支えられ、助けられて、ここまでピアノを続ける事が出来たんだなぁ・・・という溢れんばかりの感謝と、私のつたない音楽経験はもちろん、視野も広げて人生を豊かにしてくれたセーヴェルーの作品に出会えた事に心から幸せを感じております。

「セーヴェルー生誕百年コンサート」でのピアノ演奏のお話しを頂いた時、「日本人として、セーヴェルーを演奏するのは関さんが初めてですよ〜」と元東大教授の松崎先生に言って頂いたものの、現実は楽譜が手元に届かず大変な事になっており・・・。2週間前になってやっと楽譜を入手し、本番本当に大丈夫なのか!?しかも何ぢゃ?このとっつきづらいメロディーはぁ!!!と髪振り乱し叫びつつ譜読みをし、どうにか本番を無事終えた脱力感のみが残り、松崎先生の言葉はすっ飛んでいたのが実際でした。 もう二度とセーヴェルーなんか弾くもんか!!うぅっ・・と思っていました (笑)

その後、同じ年にセーヴェルーの孫のトロンさん(ヴァイオリニスト)が来日し、松崎先生と親しかったご関係で青山学院女子短期大学で演奏をなさる事になりました。しかし共演者が突然風邪でダウン。又もや3日前に高橋好子先生からお電話があり(高橋先生は現在青山学院女子短大の名誉教授で生誕百年の時私にセーヴェルーをご紹介下さった先生です。ちなみに俳優の高橋克典さんのお母様です)「何でいつも急なんだぁ〜」と再び半狂乱で泣きながら譜読みをし・・・

これが恋愛だったら、正に「最悪の出会い」っていう感じですよね(笑)

コンサートも何とか無事終わった(らしいです・・・。はっきり言って覚えていません(笑))後、脱力しながらトロンさんとお話しをさせて頂き、セーヴェルーの作品やトロンさんのお人柄に触れる中で、「こんな素晴らしい方のおじいさんならもう一度セーヴェルーを弾いてみようかな?」と軽い気持ちで家に帰って弾いてみてから・・・ 全てが始まったような気がします。

セーヴェルーはリサイタルで取り上げさせて頂く度好評を頂きましたが、やはり10年の間には様々な葛藤もありました。

プログラムではどうしても毎度お馴染みのセーヴェルーが並んでしまい、毎回いらして頂ける方々には申し訳ない思いでいっぱいの時期もありました。でもそんな中私の思いとはうらはらに、セーヴェルーの作品にご自分の人生を重ねられ、毎回違う曲で感銘を受けます、と涙が出る程ありがたいお言葉や、何度聴いてもセーヴェルーは良い!抵抗のバラードを聴く度にスカッとする!というお言葉も頂き、自分がどれ程おごった考えで作品に取り組んでいたのか、反省させられた事もありました。

でも何より心強かったのは、いつもあたたかく見守って下さったノルウェー王国大使館の皆様からの励ましです。セーヴェルーを演奏する意義を何度となく見直す事が出来ました。

前述の飯野尹氏のアドバイスのお陰で、演奏会ではサティやモーツァルトとセーヴェルーをタイアップしたり(この回は大変好評でした)北欧作品を、アンデルセンのお話とタイアップするという、音楽事務所アルテ・エスペランサの五月女京子氏の斬新なアイディアのお陰で、自分一人では思いもつかない視点からセーヴェルーを見る事で、どんどんセーヴェルーの魅力に引き込まれ、好きになっていきました。

セーヴェルーの音楽からノルウェーの自然を知り、ノルウェーの大地を感じ、そこに息づく人々の生活を知り、人々に語り継がれる物語を知り・・・。 セーヴェルーの作品は、音楽だけではない様々な事を私に教えてくれました。

そして日本で一般的に普及しているクラシック作品には無い世界・・・ 言葉が下手で何と言っていいかわかりませんが、「ノルウェーの自然・生活・音楽」の三位一体というのでしょうか。どれが欠けても成り立たない所での「音楽」というのは、未だ未知なるものと思います。 セーヴェルーに限らず、グリーグは更にこの傾向が色濃く出ていると思います。

同じ北欧でもフィンランドのものとは異なり、ノルウェーのものはもっと生活くさく、大地に根付いている。真の「生命」を感じるような気がします。

日本では毎日「死」に関するニュースが絶えません。ゲームの普及で現実に生きず、バーチャルに生きる若者を取り上げる事件が多くなってきています。 そんな今の日本だからこそ、ノルウェーの作品はピアノのレッスンから「生きる」部分を見せてあげられるきっかけになるのではないか、と漠然とではありますが思っています。

 
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